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デュアロジックの故障修理 ~フィアット 500 チンクエチェント~

投稿日:2019/10/12

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自動車のミッション(変速機)には様々な種類があるのはご存知ですか? 現在、日本国内で走行している乗用車の95%以上はオートマチック車といわれていますが、オートマチック車の中でも通常のATとCVTと呼ばれる無段変速ミッションがあります。

オートマチック車以外となると、クラッチペダルでクラッチを操作し、シフトレバーで手動変速を行うマニュアルミッション車があります。 今はAT限定免許を取得される方が多いと思いますが、ひと昔前は運転免許を取得するためにはマニュアルミッションの教習も受けなければならず苦労した思い出がある方も多いのではないでしょうか。

AT、マニュアルミッションではないもうひとつのミッションとは

ミッションの種類にはもうひとつあります。 それは輸入車を中心にラインナップされている“セミオートマチックミッション”です。 これはシングルクラッチトランスミッションとも呼ばれ、クラッチペダルがないのですがマニュアルミッション車のように手動変速して運転ができ、しかもオートマチック車のようにも運転ができるミッションなのです。

各メーカーに搭載されるセミオートマチック機構

これは通常のマニュアルミッションにセミオートマチック機構が搭載されていて、クラッチ操作もシフトチェンジも自動で行ってくれる珍しい機構。 日本車には一部の車種に採用されているものの非常に少ないのですが、輸入車では各メーカーで採用されており、BMWではSMG、アルファロメオはセレスピード、フェラーリではF1マチック、プジョーではETG、シトロエンではセンソドライブと呼ばれ機構的には同じような構造となっています。

なかでもフィアットのデュアロジックは、チンクエチェント(フィアット 500)の人気もあり一番台数が多いかもしれません。 セミオートマチックミッションは乗っていて非常に独特で楽しいのですが、トラブルが多いというのが困りどころ・・・。 輸入車を取り扱う整備工場へはセミオートマチックミッション修理の依頼が多いのも事実なのです。

今回の記事ではフィアット 500(チンクエチェント)のセミオートマチックミッションの修理事例をご紹介します。

セミオートマチックとはどのような機構?

まずはセミオートマチック機構の構造を簡単に説明します。 ミッション本体は通常のマニュアルミッションと大きく変わりません。普通のマニュアルミッションはワイヤーケーブルでミッションとシフトレバーを繋ぎ、クラッチペダルでクラッチ操作をしながら手動でシフトチェンジを行いますが、セミオートマチックミッションではミッション本体上に取り付けられたアクチュエーターが、ドライバーが操作するシフトレバーにあわせてクラッチ操作とシフトチェンジ操作を行います。オートモードではドライバーは何も操作しなくても車が自動でシフトチェンジを行います。

アクチュエーターを動かす動力は2種類あり、電動ポンプモーターで圧力を上げた専用オイルをアキュームレーターで油圧を貯めながらアクチュエーターを動かす油圧タイプ、そして電動モーターが直接アクチュエーターを動かす電動タイプの2種類があります。 クラッチ操作やシフトチェンジは人間が操作するにも力がとても必要なため、アクチュエーターに掛かる負担は大きいものでもあります。

フィアット 500(チンクエチェント)は電動ポンプモーターで発生させた油圧でアクチュエーターを動かす油圧タイプとなり、トラブル事例としては、電動ポンプモーター故障のため油圧が上がらないトラブル、アキュームレーターで油圧を貯める事ができなくなり油圧を確保できなくなるトラブル、そしてアクチュエーター自体が正常に動かなくなるトラブルやオイル漏れによるトラブルの事例があります。

今回紹介するフィアット 500は、時々シフトが入らなくなる時があり、とうとうシフトが全く入らなくなり走行できなくなるというトラブルで入庫です。

デュアロジック機構をスキャンツールで点検

症状の確認とスキャンツールで各数値を確認し、原因はアクチュエーター本体の故障であることが判明。ユーザーさまと相談のうえ、アクチュエーターの交換と、走行距離とスキャンツールで読み取った数値からクラッチディスクも交換する事になりました。

アクチュエーター交換だけならミッションを取り外す必要はありませんが、今回はクラッチディスクも交換するため、ミッション本体もエンジンから分離して取り外します。

デュアロジック機構を解説

これがセミオートマチック機構のデュアロジックです。












このデュアロジック機構がミッション本体上側に取り付けられており、写真右側が車両前側です。シルバーの本体がアクチュエーター、アクチュエーターには油圧回路を開閉するソレノイドバルブや、内部のロッド位置を読み取るポジションセンサーが取り付けられています。右側の丸く黒いものがアキュームレーター、その手前の白いケースがオイルタンク、そして写真では油圧ポンプは隠れて見えませんが、オイルタンクの横に取り付けられています。

エンジン側に取り付けられているクラッチディスクは、通常のマニュアルミッションと同じ作業で交換が可能です。 クラッチディスクとカバー、レリーズベアリングも同時に交換しクラッチ回りをリフレッシュ。その後ミッション本体をエンジンに組み付けます。 そして新品に交換したデュアロジックアクチュエーターをミッションに取り付け完成です。

セミオートマチック機構を修理後の大事な作業

ここで大事な作業があります。それはクラッチ調整です。 通常のマニュアルミッションは自動調整であったり、手動で調整するものが主流ですが、自動変速のデュアロジックでは対応したスキャンツールでの調整が必要です。 これをしなければクラッチミートのタイミングがおかしくなり発進時にガタガタと大きな振動を発生させたり、せっかく交換したクラッチの偏摩耗や早期の摩耗に繋がってしまいます。

対応スキャンツールでクラッチ調整を行った後、テスト走行で問題ないことを確認できたので無事納車となりました。

気になる修理費用は

今回はアクチュエーター本体の交換とクラッチ交換もあり合計40万円ほどの修理費用がかかりましたが、ユーザーさまはこのフィアット 500をとても大事にされており、これからも大事に乗っていくと直ったことに大喜びいただけました。

アクチュエーターの交換だけですと約30万円、クラッチ交換だけなら約12万円となります。どちらも高額ですが、ATやCVTが故障した場合はこれ以上の費用が掛かる事が多いので、セミオートマチックだから高額という訳ではありません。

ディアロジックはアクチュエーターだけではなく、油圧ポンプや電動モーター、アキュームレーター交換で直る場合もありますので、その場合は今回のアクチュエーター交換の1/3や1/4の費用で直りますので、高額な修理がかかると諦めずまずは整備工場へ相談することをおすすめします。

デュアロジックは急に動かなくなる事は少なく、完全に故障してしまう前に何らかの前兆が現れます。シフトが一瞬入らなくなったり、シフトを入れ直さないとギアチェンジしない症状が出るとデュアロジックの黄色信号でもありますので、いつもと何か違うと感じたら早めに点検を行いましょう。輸入車に対応した整備工場ならコンピューターに記録された不具合や実測数値で故障の前兆を把握し早めの対策案を提示してくれることでしょう。

デュアロジックを長持ちさせる5つのポイント

最後にデュアロジックを長持ちさせる乗り方をお伝えします。

①エンジン始動はポンプの作動音が終わってから

始動時にキーONでウィーンという音がしますが、これは電動オイルポンプが圧力をアキュームレーターに貯めている音です。始動する時はウィーンという音が終わってからスターターモーターを回すようにするとモーターに負担がかかりません。

②シフトチェンジ時はアクセルを戻す

手動でシフトチェンジする時は、マニュアルミッション車のようにシフトチェンジのタイミングでアクセルを戻すとアクチュエーターの負担が減ります。

③オートモードでもシフトチェンジ時はアクセル操作を

オートモードで走行中も自動でシフトチェンジする時にアクセルを戻すことでアクチュエーターへの負担が軽減されます。アクセルを戻す事によって、シフトの繋がりがスムーズになり乗り心地も良くなりますよ。

④シフトをニュートラル位置にしてエンジン始動

駐車時は1速、もしくはリバースギアに入れておくことがセミオートマミッションの基本です。始動時はそのままスターターモーターを回しても自動でニュートラルに戻りますが、始動前に手動でニュートラルにしてからスターターを回すことでセミオートマチック機構全体に負担がかかりません。

⑤定期的なオイル交換

走行時は無理なシフトチェンジは行わず、定期的に油圧オイルの交換を行うことでトラブルを未然に防ぎます。

まとめ

通常のATやCVTよりもトラブルが多い傾向があるセミオートマチックミッションですが、乗っていて非常に楽しい機構であり、輸入車らしさを楽しめる機構でもあります。 過去のセミオートマチック機構はトラブルが多かったのですが、近年のモデルは信頼性が向上していますので、次に車を選ぶときはセミオートマミッションを搭載したモデルも候補に入れてみるのもおすすめですよ。

[Dr.輸入車ドットコム編集部]

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